<10>原価計算は立場や利用目的で変化する(その2)
新規投稿者 地域経済研究所・阿座上洋吉  投稿日 9/8(日) 13:17:51  返信も含め全削除
<前回の続き>
3.他人に伝える言語の概念が不安定な「原価」
 建設業界で用いられている原価管理の概念がひとによって違う。我々人類は自分の意思を他人に伝達する道具として言語を用いるが、言語の概念が不安定で双方の概念の認識が違う場合、正確に相手側に情報が伝わらない。特に原価管理の概念は、経営者や経理担当者、現場代理人等の概念の認識が大きく相違する。更に、専門的用語として用いる原価の概念とも相違し、企業内が混乱している。このような状態では近代的原価管理ができるはずがない。企業内の原価管理を共通言語として概念の認識を統一しなければならない。これによって原価管理が道具として有効に機能するのである。

4.現場代理人が陥る原価管理の認識
 現場代理人の原価管理の認識は、経営者の採算計算の概念に近いが、決して一致しているわけではない。現場の実行予算による原価管理の認識は、現場代理人が獲得した予算を目標として、実際に発生する費用を減算し、あと予算残高がいくらかを管理する手法がとられる。予算残高を管理する手法は官庁が用いる予算会計の思想であり、数回にわたり記述したとおり原価管理の道具として開発されたものではなく、予算以内で実際発生額を管理する官庁の予算管理の手法である。したがって、予算会計の思想である実行予算をいくら繰り返し利用しても企業には一向に原価管理のノウハウが蓄積されていない。実行予算は、予算管理手法であって原価管理の道具ではない。もし、実行予算が本物の原価管理の道具であったと仮定したら、とっくに高度な原価管理の道具に進化していたはずである。毎回、その場限りの幼稚な予算配分の道具に過ぎないのである。これは原価管理の概念に間違いがあるからである。官庁の予算会計の金銭管理を真似たことが間違いであった。原価管理は本来、数量管理にウエイトをかけたノウハウである。したがって、金額管理が邪魔になると考えるべきである。

5.科学的立場の原価管理の概念
 本格的原価管理とは、コスト縮減の科学的技術をいうのである。したがって、経営者が考える採算計算や予算残高を金銭管理するのと違い、作業効率による時間短縮技術や、施工方法等の工夫によって材料の消費数量を減少させる技術であり、時間等の数量管理が原価管理の中心になければならない。再度、前述した<3><4>の「数量管理の妙味」を読んでいただきたい。原価の内容は二分でき、材料費の数量管理と加工費の時間管理に分かれる。特に原価管理のウエイトは加工費に掛かっている。加工費は施工時間に比例して発生するからである。時間管理を中心に施工時間短縮が原価管理の狙いであり、これで大きな原価縮減が計られるのである。極論すれば時間管理だけで達せられると言っても過言ではない。実行予算制度を実行時間制度と改めては如何であろうか。原価管理について優秀な技術者とその他の技術者はどこが相違するか。答えは単純明快である。準備や段取り施工時間にロスがないだけである。すべて時間の効率化である。技術者個人の身についた能力だけでこれからの企業は、生き残れないのである。もし優秀な技術者が退職すれば企業には何らその技術的ノウハウが残されていない。日本の技術はひとに付着して引き継がれてきたものである。これが近年マニュアル化して進化しながら企業の財産として蓄積が始まったのである。ISOが品質管理のマニュアルを進化させて高度化する点と同じ現象である。(阿座上洋吉)

返信する

パスワード

一覧へ戻る】 ※最新の画面を表示するには再読み込みしてください.