<143>建設業界に見られる市場経済の誤解
新規投稿者 阿座上洋吉  投稿日 12/4(日) 13:37:50  返信も含め全削除

1.建設業界の経営環境
 建設業者は昔から受注なくして経営なしと主張し、経営上の重要な課題として受注の拡大を訴えてきた。その現われとして工事量拡大運動が盛んであった。受注量の拡大運動として政治家への陳情が重要であったし、発注者へ日参し名刺配りが盛んに行われた。特に、公共投資の拡大時代には政治家や発注者への陳情に重点が置かれたのも当然であり、自社企業の努力だけでは可決できなかったことも事実である。そこで当時の経営目標は、売上拡大主義の精神と共に神頼み型とも言うべき現象が起きていた。しかし、以前はともかく近年の公共投資の情況は、政府や政治家への陳情、発注者への名刺配りで解決できるような環境ではなくなった。つまり他力本願の神頼みが利かなくなってきたのである。この様な時代になった環境を嘆く人も多いが、以前の状態に戻る気配は全くないし、仮に予算が拡大されたとしても、入札の競争環境は益々厳しい市場経済型に進んでいるのである。

2.公共工事に見られる入札に関する要望
(1)基準単価要望への問題
 近年の公共工事に関する要望の中で、受注量の拡大を除けば次に積算単価の値上げの要望が多い。積算単価は建設市場の調査機関によって工種別等に、全国の実勢単価を調査し平均単価が算出される。これに地域の情況を勘案して基準単価が決められ、この基準単価によって入札時の予定価額が算出されるが、この基準単価が低過ぎるという主張である。基準単価は全国の平均値であるから、企業によって低すぎるという主張は理解できるが、発注者としては地域の実勢単価の平均単価を基準として積算せざるを得ないのである。また仮に入札時の予定金額が不適切であったとしても、発注者の予算要求と入札時の目安原価であり、実際の落札金額は市場で決まるのであるから、基準単価の値上げの要求はあまり意味をなさないのである。

(2)積算項目不備への問題
 積算項目への脱落等、積算項目への不備を指摘するものも多い。この点の積算項目の脱落は、積算に関する不備であることは間違いないが、これについても積算項目の細分化等の問題でもあり、一概に不備とは言い切れない。本来、市場経済はその完成品の機能や品質を前提として価格が決まるのであって、自社企業の都合による原価に利益を加算して請負金額を決めるものではない。もともと積み上げ方式の予定価額の算定は、社会主義における計画経済の手法である。公共工事についての予定価額は、入札時の目安原価であることを誤解している業者が多い。市場経済の良いものを安くという企業自身の課題を忘れてはならない。

3.市場経済における建設業界の心構え
 市場において自社企業が生き抜くためには、自力で生き抜く力がなければならない。外部の事情に振り回されるのではなく、自社企業の力量で改善を計ることである。近年の建築士の不正設計に見られるような手抜き工事でコストを下げるしかないと考えるのは、あまりにも幼稚な考えであり、品質は最高のもので価格が安いものが市場で勝ち抜く方法である。原価発生のメカニズムを本格的に勉強する時代に来ていることを忘れてはならない。

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