建設産業研究部会

2001/9/24
改訂 2001/11/26

建設-1<工事原価の本質>
[原価縮減の原理]

建設-1-13<材料費差異の担当者責任>(材料費差異の中身とその責任担当者の関係)

 材料費の予算計算は、「予算購入単価×予算消費数量=予算材料費」の算式によって予算材料費が算定される。材料の購入単価は、購入先や支払条件、市場価格の変動等によって変化するため、その変化は外部要因によって生ずるものである。市場調査不足で高い材料を購入した場合の材料費差異(予算材料費と実際材料購入費との差額)であれば、材料購入担当者の責任であり、現場の施工上の責任ではない。また、支払条件等(手形決済期間の長さ等の条件)の原因によって発生する材料費差異は、財務担当者の責任であって現場施工者の責任ではない。現場管理者が熟練工と未熟練工等の不適切な人材配置によって発生した材料のミス・ロスによる材料費差異は、現場担当者の責任である。このミス・ロスの材料費差異であれば、管理可能費であり現場の原価管理の対象である。

建設-1-14<労務費差異の担当者責任>(労務費差異の管理可能費と管理不能費の差異分析が重要である)

 労務費の予算計算は、「予算賃率(時間当りの賃金)×予算労働時間=予算労務費」の算式によって予算労務費が算定される。賃率の差異によって発生する労務費差異(予算労務費と実際労務費との差異)は、現場の施工努力に関係なく発生するため管理不能費である。しかし、現場管理者が、単純作業を勘違いによって熟練工を配置した場合に発生する賃率差異は、配置ミスによる労務費差異であり、管理可能費になる。また、施工技術の開発や工程管理による時間短縮から発生する労務費差異は管理可能費である。

建設-1-15<実行予算の限界>(実行予算制度は前時代の管理手法である)

 実行予算は金額による管理の手法を用いている欠点をもっている。それは金額管理の限界であり、管理可能費管理不能費が混在することにある。近代原価管理の手法は、科学的に正確な原価分析を要求され、コストダウンに直接的に結びつくものでなければならない。この点で実行予算制度は、幼稚な原価管理の道具であって前時代のものである。本格的にコストダウンの科学的根拠を持ち合わせてはいない制度である。

建設-1-16<実行予算は予算消化の機能>(官庁における予算の制度で予算消化の道具としての機能である)

 官庁の予算制度は、予算内に実際発生金額を収めることが目的であり、コストダウンを目的とした制度ではない。したがって、実行予算制度は、予算消化の思想を引き継いでおり、予算消化が目的となってしまうのである。これではむしろ割り当てられた予算の消化指示書としての機能しかないのである。したがって、施工段階で積極的にコスト縮減する思想が働かないシステムである。むしろ積極的に予算消化を助長する制度として誘導されている実態がある。

建設-1-17<実行予算の予算流用の効果>(予算流用しなければ現場は動かない)

 実行予算制度は、予算消化の特性として予算流用が横行し常態化する。現場では、気象条件の変化や各種の現場の状況によって変化するから、突発的施工内容の変更を強いられる場合が多い。野外で生産する工事現場で不確実な事件が発生するのは当然ある。この点を施工担当者は、現場では何が起きるか分からないという大義名文を主張する。実行予算の項目どおりに工事が進まないのも当然である。この点を有効に機能させるために予算流用が行われるのである。予算流用は決して悪ことばかりではなく、むしろ積極的に予算を有効に流用すべきことが重要である。

建設-1-18<予算流用と真実の記録>(予算流用を隠すため真実な原価が不明)

 予算流用は臨機応変な現場の対応策として重要な機能をもっているが、問題は、流用した支出が事実の支出項目として実態記録がされていないことにある。そのため予算内容と実際支出項目を比較検討することができないのである。実際に支出した原価の実態と形式的領収書の内容が一致せず、用途別費目項目が不確実な処理が多く、実際支出項目の信憑性がない。そのため当初作成された実行予算の項目と対比の意味がないのである。これでは実行予算の対比内容に信頼性をもてないため、類似した現場への予算計画の応用が不可能になるのである。

建設-1-19<外注費コストダウン効果と所属>(原価の縮減が重要で、利益分配は将来の問題である)

 専門業者に発注された加工費のコストダウンの効果は、当然専門業者に所属するため、直接的にはゼネコンの利益にはならないのである。そのため外注した部分のコストダウンについて、ゼネコンの現場管理者が協力会社の利益管理に関心を持たないのは当然である。しかし、ここにコストダウンの秘訣が潜んでいるのである。下請の専門業者が儲かることが将来大幅なコストを下げる決め手である。常に専門業者に儲けさせることができる工事管理システムができれば、将来専門業者との価格決定に影響を与えるためである。また、仮設工事のレンタル等、時間短縮によるコストダウンの恩恵もあり、ゼネコン側にも大きなメリットがあるのである。いずれにしてもその工事の原価が大幅に縮減させる方法は、その現場の関係者が儲かることが必要であり,その利益を関係者で分配する問題なのである。その現場のコストダウンによる最大利益を上げる担当者が現場代理人(管理技術者)であることを留意しなければならない。

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